日本ではたくさんの電子マネー決済サービスが普及し、ここ数年でキャッシュレス生活はかなり現実的になり、現金を使う機会が格段に減ったと思います。
台湾は日本と比べると、市場や屋台など現金のみ利用できるお店もまだありますが、モバイル決済を導入しているお店が着々と増えています。
この記事では、台湾で最も使われている電子マネー決済サービスと、最新のキャッシュレス事情についてお伝えします。
台湾の電子マネー決済サービスについて知っておきたいこと
1. 台湾政府によるキャッシュレス推進政策
台湾政府は政策のひとつとして、2025年までに「キャッシュレス化90%」を目標に掲げており、2019年度の調査によると、スマートフォンを使ったキャッシュレスの使用率は62.2%まで昇りました。そのなかでも特に「45歳〜65歳」の中高年層の使用率が上がっており、全体の利用率の半数を占めています。
台湾政府がキャッシュレス化を進める背景としては、「国民が便利な生活を送れるように」という国民向けの理由があります。さらに、台湾で大型の国際イベントが開催され、海外からの観光客が台湾を訪れた際に、電子マネー決済を通じて「台湾は利便性が高い」と感じてもらいたいという狙いもあるようです。
参考2:政府全面動起來,加速行動支付發展
2. 台湾のモバイル・電子マネー決済事情
すこし前の台湾では、夜市の屋台や個人商店、ドリンクスタンドなど、小規模なお店のモバイル決済環境が整っておらず、現金しか使えないところがたくさんありました。
しかし、現在では一万軒以上のコンビニや大型量販店、飲食店でキャッシュレス決済が可能になっています。台湾政府の経済産業省にあたる「経済部」も、120社以上の台湾企業に対してキャッシュレス普及のために補助を行った結果、8万9000箇所でキャッシュレス決済が対応可能になり、7000万人が利用したと報告されています。
また、2019年には小規模の個人商店に対しても税金優遇措置を行い、6000軒以上の小規模店舗がキャッシュレスの申請を行ったとのこと。台湾政府のキャンペーンにあわせて、3%のキャッシュバックキャンペーンなども行われた結果、多くの人がキャッシュレス決済を利用するようになりました。
ちなみに、交通系ICカードを中心とした電子マネーの決済も普及しており、代表的なのは「悠遊卡(ヨーヨーカー・英語名:EasyCard)」です。
台北市の政府系企業が発行している交通系ICカードの悠遊卡は、台北を中心に多くのエリアで利用されています。クレジットカード一体型のものや、キーホルダー型のもの、学生証と一体型になったものもあり、学生証兼ICカードで支払えば、申請なしで学生割引が適用されます。
台湾南部の高雄市では、「一卡通(イーカートン・英語名:iPASS)」という交通系ICカードもあります。
参考:中華民國國家發展委員會 行動支付普及率創新高 邁向數位國家新生活
3. 台湾の電子マネー決済利用率
台湾電子マネー決済のユーザー利用率第1位は、「LINE Pay」になります。しかし加盟店数で見ると、「LINE Pay」の加盟店数が50,000店舗なのに対し、「街口支付(ジェイコウペイ・英名:JKOPAY」が65,000店舗以上と、最多になっています。
LINE Payがもっとも使われている理由について、台湾人メンバーに聞くと、「普段から友人とのコミュニケーション手段として、LINEを利用しているからこそ、使い始めるハードルが低かったからでは?」ということでした。
街口支付は、最初に台湾の有名な夜市などに導入を始めていった戦略的な背景があり、一気に加盟店舗が増えていったようです。結果として現状は、LINE Payと街口支付の二強で、どちらも対応している店舗をよく見かけます。
参考:台灣行動支付大亂鬥:這麼多種「Pay」,誰能成為最大贏家?
台湾の決済サービス上位3つを紹介
1. 利用者No.1「LINE Pay」
台湾でもっとも利用されている電子マネー決済サービスの「LINE Pay」には、使い方が二通りあります。
ひとつは、QRコードや「LINE Pay mini」という専用機械を使った決済方法です。QRコード読み込みによる決済方法は、日本と同じようにQRコードを店頭に張り出すだけで、店舗側は気軽に導入できるのが特長です。
「LINE Pay mini」による決済方法は、店舗側が新たにレジ打ちを新調しなくても、この「LINE Pay mini」を設置するだけで簡単に導入できる決済サービスです。QRコード方式は、買い物客が金額を入力しないといけないため、たびたび間違いが起こるのが難点でした。
しかし、「LINE Pay mini」だと店舗側が金額を入力するため、入力間違いも起きにくいことが大きなメリットです。機械のレンタル費用も1ヶ月300元(約1000円)と安く、台湾で導入された当初は3〜5%のポイント還元キャンペーンも実施していました。
もうひとつの決済方法は、高雄市の交通ICカード「一卡通」と連携して使用する使い方。こちらはチャージ方式で使用でき、高雄市のMRT(地下鉄)でも利用することができます。
2. 行政系の支払いで大活躍!台灣発の「街口支付」
「街口支付(JKOPAY)」は台灣発の電子マネー決済アプリです。クレジットカードが必要な「LINE Pay」とは異なり、銀行口座があれば利用できます。そのため、クレジットカードを持っていない学生も使え、友達同士のお金の送金なども簡単にできるので、とても人気な決済アプリです。台湾在住の日本人も利用者が多いです。
街口支付は電気料金や水道代、税金などの公共料金に加え、行政が運営している駐車場料金や学費までも、このアプリで支払いができるなど、生活インフラに深く根付いているのが特長です。我が家もこのアプリを通じて電気代や水道代を払っていますが、ポイントがどんどん溜まっていくのを実感しています。
また、街口支付のユニークな戦略として、夜市の屋台や小さな商店、ドリンクスタンドなどの、小規模店舗から普及を図り、そこから都市部の大規模店舗への普及させていった経緯があります。
この戦略は、LINE Payと比べたら資金力が劣っていた街口支付が、普段から頻繁に屋台に足を運ぶ台湾人の習慣からヒントを得て、夜市の屋台の経営者たちに対してモバイル決済が現金に比べて衛生的であることや、台湾でときどき出回る偽札を自分の店舗で使われる心配がないというメリットを説き、徐々に次第に浸透させていきました。
参考:台灣行動支付大亂鬥:這麼多種「Pay」,誰能成為最大贏家?
3. 台湾の主婦層に圧倒的な人気!大手スーパーの「PXpay」
「LINE Pay」と「街口支付」を紹介しましたが、中高年層の電子マネー決済利用率が一気に上がったといわれているのが、台湾の大手スーパー「全聯福利中心(PXmart)」が発行した「PXpay」の導入です。
2019年5月にリリースされたこの決済サービスは、40歳以上の使用者が62%。50歳以上の利用者が27%で、多くは女性が利用しているのが特徴です。中高年層に普及した理由としては、「PXpay」がいくつかキャンペーンを行ったからといわれています。
そのひとつが、お会計の際に店員から「PXpayのアプリはダウンロードしましたか?」と言わず、「100元分(約300円)の無料チケットは受け取りましたか?」と、主婦層に刺さる声かけキャンペーンを行ったこと。
また、いつも利用する店舗の顔馴染みになっている同世代の店員から、主婦層に向けてアプリの利用を勧めたことで、一見難しそうな電子マネー決済に対して心理的なハードルが下がるようにアプローチを行った結果、利用者が増加しました。
実際に、わたし自身はこの決済アプリを使用せず、お店のポイントカードを利用していますが、店員さんから「今日電子マネーで支払うとポイント倍になるけどどうする?」と、よく声をかけらます。
そして、台湾人口の5分の1にあたる、500万人以上が登録しているこの決済アプリは、生活に根付く大手スーパーならではの戦略で、展開に成功した事例といえるでしょう。
参考:全聯如何讓沒聽過行動支付的婆媽粉,變PX Pay主力用戶?
日本人が台湾で決済サービスを使うなら?
一番簡単な方法は、交通系電子マネー「悠遊卡」を利用した決済です。これは台湾の銀行口座が必要なく、地下鉄の駅やコンビニでチャージさえすれば、交通機関だけでなく、コンビニを含めた様々なお店で決済ができます。
「LINE Pay」を台湾の店舗で利用する場合も、2023年3月時点では、LINEアプリ内でサービス利用国を「台湾」に変更することで決済可能です。
また、台湾に移住される方など銀行口座を開設することができれば、「街口支付」もおすすめ。公共サービスの決済なども含め、台湾生活に関連するサービスのほとんどが、「街口支付」の決済で完結するため、弊社で働く日本人社員も利用しています。
台湾に来る旅行者なら「悠遊卡」、台湾移住者なら「街口支付」からまず利用してみてください。台湾での旅行や生活が一層便利になるはずです。
ここ数年で急速に普及していった台湾の電子マネー決済サービス。今回のコロナウイルスの流行でより一層、台湾社会に根付いていくことが予想されています。
わたし自身、台湾で積極的に電子マネーを使っていなかったのですが、これから積極的に利用し、新たな発見があれば、追記してご紹介できればと思います。